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ザ・ラック・イーターズ・コイン コンティニュー

ウォンバットマガジンさんの企画、
宿語りのシーガル』に寄稿した、
ザ・ラック・イーターズ・コイン
の翌朝の風景を書きました。



 大樹は大陸に広く分布している。

 大樹は、花も実も付けぬことで有名である。
植物は、花をつけ実を結び、種を作って殖える。
ならば、大樹は、どうやって殖えるのか。
簡単である。大樹は花を咲かせている。
ただ、観測されていないだけだ。

「んーっ、と」

 ヴァイオレット・ラウルスを名乗る少女は両手を天高く上げ、伸びをした。
齢三千年、と宣言した通り、彼女は人間ではない。
ただ、彼女自身が三千年も生きているのかと言うと、それも正しくはない。
三千年というのは、彼女の宿った大樹の樹齢である。彼女こそが、大樹のつけた花であった。
大樹は殖えるために花を咲かせる。ただ、そのスパンが人間が観測できるものではなかったため、これまで記録されていなかったに過ぎない。
 彼女が彼女として存在し、生きるのは、彼女自身が枯れ果てるまでに受粉して大樹を殖やすためだが、目下のところ、彼女は繁殖に興味を持てなかった。
 歩き回る事ができ、語る事もでき、自我さえできた彼女の今の興味はもっぱら歌うことであった。
  だから、群島のひとつに辿り着いて、様々な想いと魔力の匂いに惹かれて扉をくぐった店の、奇妙で不思議な催しに、大樹の記憶を歌ったのも、そんな理由からであった。

  あれは、彼女の前に咲いた花の歌である。
大樹の花が種を作るには、人間の欲望が必要だ。
  悪運という果実を与えて心を肥え太らせて、自らが殖えるための養分とする。
あの歌の娘は、種となれずに枯れ果てた花だ。
  結実までは成功したようだから、もうひとりくらいは犠牲になった人間の男がいたのだろう。人生を空っぽになるまで吸い尽くされ、棄てられた被害者が。
  そんなことは、このヴァイオレット・ラウルスには全く関係のない事だった。

  実を結ばず、種とならず、何にもなれずに枯れても良いと思っている。
好きな歌を歌い、風が誘うまま世界中を旅して、土地土地の様々な物語を聞いて。
それで枯れ果てるなら、それはそれで自分は満足してしまうだろう。
  ヴァイオレットが宿屋で歌う際に、その場にいた者に見せた幻は、本来ならば獲物を惑わすための力だが、使い方は自由だと思うのだ。

  昨晩の吹雪が嘘のように、空は澄み渡っている。

「お嬢ちゃん、行き先は決まってるのかい?」

  チェックアウトしてすぐに、声をかけるものがあった。
昨日、ヴァイオレットが自分のチラシを押し付けた青年だ。

「んー、みんながお話してた砂の国でも見に行こうかなって。」
「ああ、なんだかそっちに向かうやつ、多そうだな。」
「本当に砂に閉ざされてるかもしれないし、意外とヒトがいて、大劇場や図書館なんかのある、文化的な生活してるかもしれないし、誰かが言ってたみたいな死の国かもしれないし、生の国かもしれないし。眠りから目覚めるのを待ってるのかもしれないし。ちょっと見てみたくなりまして。」

  青年は、ぽりぽりと頭をかいて、ヴァイオレットに言う。

「それ、ついて行ってもいいかな。昨日のカモメ流しで俺の仕事も流れちまった。暇なんだ。」
「構わないけど、みんなが言ってたような怪物や悪魔がでるかもしれませんよ?それに、食人植物の苗床にされるかも。」
「まあ、そんなのがいても、俺はそこそこ腕が立つんだ。それに、それを言うならお嬢ちゃんのほうが危ないんじゃないか?」
「あたしの歌のレパートリーは、昨日みたいな幻だけじゃなくて、死の歌さえもありますし。」
「おお怖ッ。だからか。『どんな歌でも歌いましょう。』てのは。」
「『報酬と気分次第で』ありますがねー」

  ふふん、とヴァイオレットは戯けてみせた。
  太陽の光を受けて、積もった雪がきらきらと輝いている。
  ヴァイオレットは思い出した。実を結ぶ花は、人間と恋に落ちた花だけ。
はて、とヴァイオレットは首を傾げた。ならば、あの歌の娘も誰かと恋に落ちたのか。

  すいー、とヴァイオレットと青年の頭上を鴎の影が通り過ぎた。
  まあ、良いか。マジカルシンガーソングライターとして歌い散ることを決めたビビさんには、何も関係のないこと。
  散る前にたくさんのものを見て、たくさん歌う。

  それだけだ。

<ザ・ラック・イーターズ・コイン コンティニュー 了>
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