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まおうのたび

失脚してます。(完結)








某月某日。失脚しました。

魔王に即位して千余年のある日。あたたかな陽射しの差す、うららかな午後でした。独裁といえば独裁、平和ボケといえば平和ボケの世界に飽き飽きした子供達によって、私は着の身着のままで放り出されたのです。
子供達のせめてもの情けなのか、現在流通している硬貨をちょうど100と、棒っ切れ一本持たされて、私は路頭に迷う事になりました。
さて。困りました。行く当てもありません。まずは何か職を探し、旅の路銀を手に入れなければなりません。しかし、私はこれまで魔王業に就いたことしかありません。途方に暮れて、カフェのホットミルクで一息つきながら、かつての子供達の言葉を思い出しました。
確か、エルフや人間の若い娘の体が高く売れるとかなんとか。
「それだわ。」
私はぽんと膝を打ちました。
それならなんとかなりそうです。なぜなら今は幸い、戦乱の世。あちこちに脚や腕が落ちています。
私は少ない持ち金からミルク代をテーブルに置くと、戦場へと転移しました。

思った通り、戦いに敗れた生き物のパーツがいくつも落ちています。
前線は、随分前に移動したのでしょう。動くものは、血肉を漁る烏ばかり。
私は、戦場をざっと見渡し、比較的綺麗なパーツを拾うことにしました。こうなれば、烏の彼らはライバルです。
私が抑え込んでいた瘴気をほんの少し解放すると、烏たちは大急ぎで逃げて行きました。

さて。背負子にずいぶんたくさんと戦利品が溜りました。だいぶ日も傾いてきました。今日のところはこれまでにしようと、大きな枯れた樹の下に腰掛けると、腕にこつりと当たるものがあります。
燕の尾羽のように黒く、雪のように白いそれは、美しいヒトの首でした。
首は、私が即位したばかりのころに私が闘って、敗北した冒険家に面差しがよく似ていました。

冒険家は、私が勇者でしか止めをさせないことを知ると、あっさりと諦める代わりに、成果物として私の心の臓を奪っていったのでした。文字通り、ハートを奪われた私は、冒険家に何度も求婚しましたが、こう言って断られました。
「僕は君と違って、持ち時間がとても短い。世界には、目にするべきものがたくさんあるのに、君たち魔物が壊すから、急いで見て回らなきゃいけないんだ。だから君のために立ち止まることはできない。」
ただ、最後の求婚時には、もしも、世界を巡ることに満足して、それでも時間ができたなら、私のために立ち止まることも考える、そのときに、私に私の心臓を返そうと付け加えられました。
しかし、冒険家は、旅先で病を得て、世界のほんの少ししか見ずに、私を置いていってしまいました。
私が世界を平らげてしまう、そのわずか一月後のことでした。もう、冒険家が見たいものを壊すものは誰もいない。ゆっくり見て回ると良い。そう言った私に、冒険家は、
「愚かな、憐れな魔王。」
と、ひとこと残して、瞼を落としたのでした。それから、二度と目を覚ますことはありませんでした。
冒険家は、私にハートを返すことなくいってしまったため、私はそれから今までの間、何をしても全く空虚で、それこそ、ぽっかりと心に穴を開けたまま過ごしていたのでした。
冒険家とこの美しいこの首は、同一人物ではありません。冒険家を埋葬したのは他でもなくこの私なのですから。

私はそっと首の頰に指を這わせました。首には、両目がありませんでした。ただ眼窩だけが黒々とあるばかり。私は、先ほど拾った中からとりわけ綺麗な眼球を選ぶと、首の左眼にねじ込みました。これで左眼は、澄んだ空を映しました。しかし、右眼に相応しい眼球がなかなかありません。仕方なく、私は自分の右眼を首に与えることにしました。
魔王である私、いえ、元魔王である私は、目で物を見て感知しているわけではありませんから、片目があろうと無かろうと、さして変わりはありません。これで、首の右眼は、深い闇を映しました。
見れば見るほど美しい顔です。私が思わず見とれていると、首がぱちりと瞬きをしたのです。私は驚いて、首を取り落としそうになりました。
見間違いだったのでしょうか。首に変化はありません。私は首をそっと自分の外套で包むと、当初の目的を思い出しました。私は戦利品を売り、金子を手に入れなければなりません。

人通りの多いところ。顔を隠しても物が売れるところ。そんな場所があると聞いたことがあります。闇市場。闇、という響きが、なんとも私に相応しいような気がします。しかし、場所に心当たりがありません。まずは情報収集が必要です。背負子を一時的に創った亜空間の中に転送し、私はスラム街裏通りの酒場前に転移しました。情報収集といえば酒場であると、聞いたことがあるのです。
スウィングドアを押し開けると、ざわついていた室内が一瞬しんと静まりました。作法を間違えたでしょうか?しかしそのうち大半が、フードを目深に被った私を見止めると、興味を失ったようで、また元の喧騒が戻りました。それでも数人は、まだ私に殺気を向けています。
カウンターの隅の席に座った私は店主に一番安い酒を注文しました。
「仲間を探しているのかい?」
私は首を振りました。闇市場の場所と、それからそこで商いを行うにはどうすれば良いか。店主に訊ねました。
殺気が、強まりました。
「僕なら知ってるよ、オニイサン。」
琥珀色で満たされたグラスを片手に、額にバンダナを巻いた女が私に声をかけました。
「連れて行ってあげようか?」
これは、運が良かったようです。薄汚れた男物の服を着た女は、私を案内してくれるようで、今しがた私が入ってきたほうのドアを顎で示しました。
「ぜひお願いするわ。」
にたり、と笑って、女はぽん、と私の肩を叩くと、店の外へと歩き出しました。
女について歩いて行くと、どんどん薄暗く、狭く、人気がなくなってきました。
こんなところで、物が売れるのでしょうか?袋小路に着いたとき、女はくるりと振り返りました。
「さて、オニイサン。有り金全部置いてもらおうかな。痛い目にあいたくなければ。」
女は、三日月型に唇を歪めると、手にしたナイフを顔の前で振りました。なるほど、商いを始めるためには、幾ばくか、渡さねばならないのでしょう。有り金全部、というのは、私の手持ちをどうやってか察したのでしょう。私は、懐から財布代わりの麻袋を取り出し、足元に投げました。
女は、中を改めると、不機嫌そうに鼻を鳴らしました。
「やだなあ、そんな身形でこれっぽっちな訳がないだろう。バカにしてる?」
と、言われても、私の持つ全財産は、今はこれだけです。いえ、他にもありました。
私は、檜でできた棒切れをまた、同じところに放りました。
「あー。なるほど?喧嘩を売っているんだねオニイサン。」
何か怒らせてしまったようです。怒っているわりには緩慢な動きで、男は私にナイフを突き付けました。
私はそっと指で女のナイフに触れると、その刃が一瞬で錆びつき、朽ちてしまいました。これはいけません。失脚したとはいえど、まだ私の中に魔王としての特性が残っており、私に害なす者の武器を、私の意志に関わらず、こうして無効化してしまうのです。
まずは話を聞かねばなりません。ここで売り買いを行うには、どれくらいの費用が必要なのか。
今の手持ちで足りなければ、どうにかして資金を調達しなければなりませんから。これでは女をますます怒らせてしまうに違いありません。
「なんだ!?一体何が」
女は一度大きく跳び退りました。警戒されてしまったようです。
私は害意のないことを示す為、両手を小さく上にあげ、掌を女の方に向けました。
すると、その拍子に、フードがはらりと後ろに落ちて、私の顔が顕になってしまいました。
「そ、その顔……!」
私の顔を見るや否や、女は息を呑み膝をつき、額を地面に擦り付けました。
「もうしませんすみません。ホント、まじで許してください。ほんの出来心だったんです。あなたさまから金品強奪なんてまさかそんなことできるわけないじゃないですか。ええ。」
あまりに額を擦りすぎて、バンダナが髪の方にずれてしまいました。
「あなた、その紋章」
女の額には、白々と銀色に輝く勇者の紋が刻まれていたのです。
「オニイサン、いや、兄ィが魔王様だなんて気付かなかったんだ。許してくれ頼む、この通りだ。」
「勇者だなんて気付かなかったわ。聖剣が近くにあれば昔は感知できたのに、鈍ったのかしら。」
私が首を傾げていると、勇者は顔を上げました。
「売った。」
なんだか、奇妙な言葉が聞こえたような気がします。
「剣も鎧も籠手も潰して金に換えた。」
「あなた……」
私が絶句していると、勇者はぼろぼろと泣き出しました。
「だって、もう魔王を倒すとか倒さないとかでどうにかなるような世の中じゃないんだ。戦だって、個人がどうにかできるようなものじゃない。だからせめて、聖剣が悪用されないように剣を潰し、勇者の力がパワーバランスを崩さないように身を隠して生きていたんだ。」
「それならどうしてこんな追い剥ぎみたいな事をしてるのよ?」
「しばらく前に、全財産を騙し取られたんだ。悪を察知する能力だけはあったから、悪人からなら奪っても良いと思って、あの酒場でカモを探してたんだよ。初めて、純然たる悪を見つけたと思ったら、魔王だなんて……」
なんてついていない人生だ、と勇者は肩を落としました。確かに私は悪の中の悪ですし、勇者が私を最初の獲物として選ぶのも、不思議ではありません。
「あなた、レベルは?」
「じゅーご。歳は14。」
レベル15といえば、やっと全体攻撃魔法を覚えた頃であり、14歳といえば、やっと物事の本質が薄っすらと見えてきた頃です。
「非行に走る頃ではあるけど、感心しないわ。」
「そんなこと言ったって、兄ィ。もう今日の飯を買う金だってないんだ。そういえば、兄ィは、どうしてあんなところに?闇市場を探してるって言ってたね。」
ハンカチで涙を拭ってやると、ぐすぐす鼻をすすりながら、勇者が問いかけました。
「食事なんかは必要ないから良いのだけど、眠る時はベッドが良いでしょう。」
これからいつまで続くかわからない旅をするのです。それにはお金が必要なのです。
売り物は調達しているので、あとは売る場所だけです。
「兄ィは何も持っていないようだけど、一体、何を売ろうっての?」
「戦場で拾ったヒトを、よ。」
私が答えると、勇者の表情が険しくなりました。
「奴隷商をおっぱじめようってわけかい?」
私は首を傾げました。
「ドレイ?」
「だってそうだろう。人を売る、だなんて。どこかに捕えられてる人がいるのか?」
何か、誤解を受けているようです。
「品物を、見たい?」
「ああ、ぜひ見せてもらいたいね。」
また、ぴりぴりとした殺気を勇者が放ちます。
私は、勇者の喜怒哀楽の刺激ポイントがわからないながらも、見たいというのを拒否する理由もありませんので、亜空間を開きました。
「この中よ。」
亜空間と繋げた穴に頭を突っ込んで、瞬きするほどの間で、
「ひぃっ」
勇者は飛び退きました。
「ひ、ひとの腕、が、脚が……」
真っ青な顔で、ゆっくりとこちらを仰ぎ見ます。
「あれは、兄ィが?」
「ええ。私が拾ったの。多少血色は悪いけれど、新鮮な体だわ。」
ぽかん、と勇者は口を開けました。
「拾った、って、兄ィが拾ったときから、アレはあの状態?つまり、全部生きていないものだった、ってこと?」
私は首を縦に振りました。
「ええ。」
「アレが、売り物?」
「ええ。ヒトの体は高く売れると聞いたもの。」
私がそう答えると、何故だか勇者は頭を抱えました。
「一応聞くけど、そんなものが売れると思う?ちなみに、万が一、仮に売れたとして、用途はなんなんだ?」
「そうねえ……」
あまり考えていませんでしたが、組み合わせて蝋燭を配置したシャンデリアや、ちょっと変わった家具なんかが良さそうです。
「小洒落たインテリアとして流行すると思うわ。」
勇者が即座に裏拳で空を切り、また頭を抱えてしゃがみこんだ体制に戻りました。
「イケない!イケないよ!そんな悪趣味な流行があってたまるか!」
「あら、そーお?」
私はしばらく思案して、
「こんなのはどうかしら?」
集めた中から幾つかのパーツを見繕いました。それから、別の亜空間から愛用の裁縫道具を取り出します。
腕、胴、脚。全てのパーツを縫い合わせ、最後にあの美しい首を壊さないように細心の注意を払って縫い付けると、一糸纏わぬまま眠る人形が出来上がりました。
もちろん、このままでは終わりません。裁縫道具を取り出したのと同じ亜空間から、絹を一反取り出して、一枚のドレスを縫い上げました。
それから、白粉や紅を施してやると、生者と見紛うほどの出来です。
「お裁縫は得意なのよ。これなら売れるでしょう。」
「売れないよ!」
「これでもだめかしら。ここ数百年くらい、お城に籠りっきりだったから、最近の売れ筋がわからなくて困るわ。」
「もうどこから突っ込んでいいかわかんないよ!」
「ネ。」
勇者に同意する者がありました。
「しゃべっ!?」
勇者が派手な動作で驚きます。私も驚きました。
人形は、色の違う左右の目をぱちぱちと2度3度瞬きして、かくん、と首を左に傾けます。
「ゾンビだ……」
「私の影響を受けてしまったのね。」
これでは売り物になりそうにありません。
しばらく呆けていた勇者が、ぽつりと呟きました。
「というか、その裁縫の腕があるなら、それで商売すればいいのに。」
「とは言っても、首を拾ったのはこの子だけだもの。」
ネクロマンサーに対してや、前線に出す戦闘人形として売り出すことはできるかもしれませんが、偶々できたこの子に戦闘能力があるかどうかは甚だ疑問です。
「そーじゃなくて。服のほう。縫い目もわからないし、金持ち連中に売れると思うけど。」
「なるほど、仕立て屋さんね?」
幸い、裁縫道具と少しの糸と布は亜空間の中に持ち出してあります。これで何着か売り、それを元手に材料を買い足せば、しばらくはそれで過ごせそうです。
「で、あのさあ、もし良ければ、なんだけど。」
勇者が頬を掻きながら上目遣いに言いました。
「あたしも、その、手伝わせてくれないかな。なんでもするし、時勢に明るい人材が必要だろう?」
「そうね、あなた、ちゃんとすれば容姿も悪くないし、この子と一緒に私の服を着てくれれば売れそうね。」
「えっ!?」
もうひとつ、旅の目的を思いつきました。
私の心臓を探しに行くのです。聖剣で心臓が貫かれるか、世界と共に心臓が滅びるまでは終わりのない生だということには、今までと変わりがありません。冒険家に顔がよく似た人形と、冒険家に声と仕草がよく似た勇者を見ているうちに、冒険家のような、心を捧げる相手に巡り会えるのではと思い至ったのです。いえ、もしかしたら冒険家が転生しているかもしれません。そのときに、再び心を捧げるためには、自分の手元で管理していなければ、また冒険家に愚かだと言われてしまいますから。
これが、元魔王と勇者と人形の即席パーティーが長い旅に出ることになったきっかけです。旅の途中でもいろんなことがあったのですが、それはまた、別の機会に。

おしまい。

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