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バレンタインネタ。

バレンタイン用に書いてたけど、例のごとく遅刻。

泉からレモネードがこんこんと湧き出で、ソーダ水の湖に流れ込む。
あたりに充満する甘ったるい香り。
ビスケットで舗装された道。
鮮やかな原色のロリポップが咲き乱れ、空にはコットンキャンディーが浮かび、ジェリービーンズの魚が跳ね回る。
「ハイカロリーだわ。」
全身がベタつきそうだ。真水のシャワーを浴びたい。
炭水化物の塊のボートの上。
気が付くと、そこにいた。

キャンディケインが柄となった傘で遮られたぐるりを見回して、私、神瀬芽衣は正直な感想を洩らす。
「甘いものはお好きでしょう?」
いつもより甘ったるい声が耳朶を擽るので、私は首を振る。
「私は量より質のタイプなの。」
首をひねって見上げると、いつも通りの深い青。穏やかな、穏やかに見える彼の目。
ビターチョコレートのシャツ、同じ色のハット。ミルクチョコレートのジャケット。スイートチョコレートのボトムス。ホワイトチョコレートのベスト。タイはベリーチョコレートにナッツのアクセント。
よく似合うが、なめきった格好だ。いつもはもうちょっとシンプルな格好を好んでいるはすだが、今日はやたらと装飾華美だ。
私も人のことは言えないが。
ミルク色のワンショルダー。ドレープがホイップクリームのようにふわりとひろがり、葡萄や桜桃や輪切りの柑橘類、アラザンが散りばめられたドレス。
客観視すると痛々しいことこの上ない。
「なに、してるの?」
背後からすっぽりと腕の中に私を収納して、私の髪を手で梳る作業を続ける彼に。
「芽衣さんを」
緩い拘束。
「撫でています。」
「どうしたの?なんだか変よ。」
彼の腕から脱出し、正対する。スキンシップが過剰ではあるが、この程度の奇行は普段と大差はない。
漕ぐものもなく、動力もなく、ボートは進む。
流れていくポップアートのような風景の中に、映画から抜け出してきたような美青年。
草木を揺らす風が妙なる楽の音を奏でる。
ボートが停止した。

粉砂糖の雪が降り積もる中に、飴細工の城が聳え立つ。
私は彼に手を引かれ、城内へと導かれる。
中は小洒落たカフェレストランになっていて、奥の席へと案内される。
砂糖菓子の楽団による演奏に合わせて、ホールでフルーツゼリーが踊っている。
ソファ席。横並びに座った彼に私は訊ねた。
「ここはどこ?」
傍らの彼の様子を窺うと、楽しげな様子でこちらを見返してくる。
「デート。約束だったでしょう。」
「あー、そうね。」
2週間ほど前、ちょっとした無茶をやらかして、足の骨にひびを入れた。
彼の謎の医術で半日で完治したのだが、その時の対価として、デートを要求されたのだった。
上位魔族、どころか実質ナンバー2に、人ならざる業をもって何かをしてもらってデート1回で済むというのは、破格には違いないのだが。
「で、ここ、どこ?」
「あらゆる場所の狭間です。」
「いや意味わかんないし。」
女の子の幻想をこれでもかと詰め込んだような場所である。まあまあ魅力的なところであるし、素直に楽しむのも良いかもしれない。
ひとりで帰ることもできない場所であるし、おとなしく付き合うことにする。

私たちの他にも客がいるようだ。
その多くは、シルエットが人の形をしていない。
「あれってなに?」
「僕たちと同じです。ここはそれなりに人気店なんですよ。」
人外魔境のカップルが多い気がする。
薄い布で全身を包んだ女と銀髪銀眼の青年。
傷だらけの女と青黒い肌の節足動物と人間を組み合わせて青黒い金属でコーティングしたような生き物。
片眼鏡の学者風の女と、獅子と牛と犬のミックスのような生き物。
他にも角のあるのや、犬歯の発達したの、羽根の生えてるのが数組。
揃いも揃って、蕩けた笑みで幸せそうに歓談している。柑橘系のパイを食べさせあったり、ただ見つめあったり、踏み付けるよう強要したり。
ざっと『視』た感じ、私の知っている碧玉の御遣いとも、藍玉の魔族とも違うし、地上に堕ちた魔物とも違う。
人間に見える方も、私と同じような浄化能力がだだ漏れていたり、死を捻じ曲げて生きていたりと様々だ。
許されていなそうな恋人たちの集うデートスポット。まさにそんな感じ。
視界に入っているだけでおなかいっぱい。

意識を自分のテーブルに戻して、
「芽衣さん。」
私は少したじろいだ。
「な、なに?」
いつもよりも真剣な眼差しが、目の前にあったので。
菓子の匂いとは違う香りがふわり。
「僕は芽衣さんが好きです。」
「知ってるわ。」
普段もよく耳にする言葉だ。
好き、と言っても、彼のこれは犬や猫に対する好みを口にするのと変わらないことを私はよく識っている。
「僕は芽衣さんの躰も、魂も、全部欲しいと思っています。」
が、今のこれの響きはいつもと違う。
まるで、言葉通りに愛を囁いているようではないか。
周りの熱に当てられたのだろうか。
彼の囁きがゾクゾクと全身に溶けていく。
「アタマに砂糖でも詰まっちゃったの?」
ふっ、と彼の顔に影が差す。手を取られ、
「芽衣さんの望むもの、全てを差し上げますから」
髪に触れ、頬に触れ、唇、喉、と白く長い指が滑る。
「芽衣さんの全てをください。」
引き寄せられて、引き倒される。ソファの背もたれに体が沈み込む。うまく体が動かせない。
「貴女はただ頷きさえすればいい。」
ゆっくりと、彼の端正な顔が近付く。
唇を奪われ、頭の芯が痺れて、力が抜ける。
それでも私は辛うじて自由な右手で自分の腿に触れる。
冷たい感触を頼りガンホルダーから銃を引き抜いて、彼の喉に突き付けた。

私は、私に覆いかぶさる彼に銃を突き付けた状態で、ベッドの上で目が覚めた。夢だったらしい。
先の仕事の後、帰路を辿るには遅過ぎる時間で悪天候のために泊まったホテルの一室。
「おはようございます」
「おはよう。寝込みを襲おうだなんて、あなたらしくないわね、黒崎真斗。」
苦笑いで、そっと離れる真斗。私の仕事のパートナーである。
私は起き上がって、それ、と彼が指差す先を見た。流行のアロマキャンドル。
甘い夢が見られるとの触れ込みで、私と同世代の少女の間で流行している。
サイドテーブルの上で、このキャンドルが燃え尽きていた。
私が灯したものではなく、部屋に案内されたときにはすでにこれの焔が揺れていた。
「それが流行している理由は、それで呼び寄せられた下級魔族が見せる淫夢のせいですよ。魔族が使用者の生気を吸い、使用者は愉しい夢を見る。彼らにしては、珍しく双方が利益を享受できる方法を思い付きましたね。」
褒めてるのか貶しているのかよくわからない言葉を吐く。
「芽衣さんのは、そのような者には渡さず、僕がありがたく……。」
そこまで言って、気付いたらしい。
「……あれ?怒ってます?今日は、親しい者に菓子を贈る風習のある日でしょう?ですから僕はてっきり」
「てっきり、なあに?」
あ、目を逸らした。
「……僕が魔族とわかっていながらそんな日にこんなものを使っていらっしゃるので、誘ってくださっているものかと。」
それで珍しく、乙女の寝室に許可なく忍び込んだのか。
「約束のデートは無しね。」
「あー……はい。この前のあの分は、もう先程頂いたので」
あっさり引き下がった。
「ちょっと待って。いただいた?」
つまり、唇に残る感触は、夢ではなくて。かあっ、と熱くなる顔を誤魔化すために、とりあえず発砲してみる。
銃口から発生した攻性魔法は、彼の見もせず動かされた彼の片手に集束し、消滅する。
「万死に値する。」
「う。ですよねー。」
何やら反省しているらしい。床に直に正座したまま、こんなうまい話は無いとは思っていた、とか、そんな言葉が漏れ聞こえてくる。
「……帰りにケーキ、奢ってくれれば許す。」
寛大な私は、救済措置を提示する。
「それに、……誘う?とき、はちゃんと言うわ。」
言ってしまった。
嬉しそうに復活し、早速何か仕掛けようとする彼に2度目の発砲を行いながら。
私は今日のこの記念日に、彼に与えるプレゼントを鞄からいつ取り出すか、に頭を悩ませるのだった。



<おしまい>
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