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魔王「連れていけ。多少手荒に扱っても構わん。」

これのつづき。






もてなしてやれ、私は確かにそう言った。
しかし。
もう少し、云わんとすることを察しても良いものではないのだろうか。配下としては。

勇者を文字通り歓待してどうする。

シャンデリアを煌びやかに輝かせ、冒険者と称する人間共の血液を吸った絨毯が引き剥がし、石の床は鏡の様に磨きあげ、料理を並べたて、緩やかな音楽など流し、どこから引っ張り出してきたのか絵や骨董など、下品に見えぬ程度に飾る。

そして、当の勇者はどうだ。

古臭い剣はおろか、小汚い鎧や篭手、シャツとパンツまで取り上げられ、体を磨き上げられ、化粧を施され、豪奢なドレスを着せられ、ぼさぼさだった髪は丁寧に梳られ、リボンで纏め上げられ、ティアラを載せられ、今は黄金に輝き、宝石が首元を飾り立てている。
この分では、下着すら、使用人共の納得のいくものに取り替えられていることであろう。

勇者が食べ終えたフルコースがメイド共の手によって片付けられると、普段は乗り込んできた人間共との戦闘にしか使われない大ホールに、宮廷付の楽団が、久しぶりに勢揃いしていた。
メンバーだれひとりとして、欠けることなく。

私は頭を抱えた。

あそこでチェロを構えている奴には、北の拠点を任せているはずであるし、向こうでピアノの前に座っている女は、今頃南の塔の最上階で、魔封じの玉とやらの守護をしているはずだ。
それからティンパニ。精霊王との戦にでているはずだよな。
指揮者。あれは、西の帝国の大臣に成り代わり、内側から我々魔族への降伏を促しているはずだ。

「……側近」

人間の若い男の姿をとって、燕尾服など着た側近は、サムズアップで応えた。

「ご安心を魔王様。我が魔軍には、優秀な人材が揃っておりますれば、上長が有給休暇をとりましても、通常業務に支障はありません。」

「有給とってきておるのか!?」

「はい。全員、魔王様に是非とも花嫁を獲得していただきたいと。」

チャッ、と側近が額の前で二本の指を立てて合図すると、指揮者は頷き、指揮棒を振り始める。
もじもじと、白い絹の手袋につつまれたか細い腕を差し出して、上目遣いにこちらを見上げる勇者。
陶磁器のように白い顔に、長い睫毛が影を落とし、貴腐ワインの色の瞳は潤み、頬は薔薇色に染まる。

なんだこれは。

これが、大剣を振るい、この魔王城にたったひとりで飛び込んできた娘と同一人物であろうか。
どこもかしこも触れただけで折れてしまいそうに細っこく、どこもかしこも触れただけで切れてしまうのではないかと思わせるほど柔い。
それから、勇者は伸ばした腕を下ろし、肩を竦めて言った。

「や、やっぱりボクじゃだめだよね!どんなに綺麗な格好したって、元がダメなら似合わないし、服が綺麗な分、醜さが目立つっていうか!」

えへへ、脱がせてもらってくるね、と出口に走り出す勇者の肩を、私は、何時の間にか掴んでいた。
勇者が逃げようとするのを妨げるのは、魔王の特性であってこれは無意識下の行動である。他意は皆無だ。

「一曲だけなら踊ってやっても構わん。その程度の容姿はしている。」

これは、惨めな勇者を見て、気紛れを起こしただけである。けして他意はないのだ。
メイド頭と側近が、背景でハイタッチしていようとも。
ワルツを奏でる演奏家どもが生ぬるい笑みを湛えていようとも。

「久しぶりだから、うまく踊れるかな。」

目障りな涙を拭ってやると、勇者は照れたように笑った。
無様に踊る勇者を揶揄してやろうと思ったが、なかなかどうしてうまくステップを踏む。
ふわりと軽い勇者は、少し乱暴に扱えば消し飛んでしまうのではないか。
抱く手に少し力を籠めるだけで、粉々になってしまうのではないか。
そんな風にいろいろなことが駆け巡るこちらの方が、動きがぎこちなくなる。

妙な熱気を冷ますために、テラスへ勇者を連れ出し夜風に当たる。

「ボク、こんな気持ちになったのは初めてだ……」

吐息のような声で、勇者は囁いた。
私はたじろぐと、ようやく手摺りで体を支えた。
そこへ、勇者がもたれかかるように、体を預けてくる。
なんなのだこの娘は。誰ぞが、魅了の術でもかけて、混乱状態にあるのではなかろうか。

「お腹いっぱいごはんを食べたのも、女の子の服を着たのも、本当に久しぶりだったよ。父様と母様が存命だった頃みたいだった。本当にありがとう。」

所在なく、彷徨わせた視線は、ある一点で留まった。
窓からホールの中が覗く。メイドや側近、各将共が、白い板に
『そこでキスして!』だの、
『魔王様がんばって!』だの、
『ハグ!』だの、
『押し倒せ!』だの、
各々勝手なことを書いて掲げている。
なんであんなにテンションが高いんだあいつら。

「……今日はもう遅いし、ボクはもう行くよ。」

「そ、そうか。」

手下共のブーイングが聞こえるようである。

「ちなみに聞いておいてやろう。今夜はどの町に宿を取るつもりだ。」

使用人のひとりにでも送らせるつもりで問うと、勇者は首をかしげた。

「ここから町まで遠いし、お金もないからいつもみたいに野宿だよ。宿なんて泊まったことないよ。町でも、馬小屋の隅っこを貸してもらったり……」

こんな小娘をこんな夜中に放り出したら、あとでなんと言われるかわからぬ。

「ならん!おいメイド共。部屋を」

ばん、と扉が開いて、メイド頭が喜色満面の笑みで応じた。

「もう準備できてございますわ!」

「私の部屋ではなく、客室を用意するのだぞ。」

「あらわたくしとしたことが、うっかり。」

「おい……」

てへっ、と自分の頭をこつんと叩いて使用人は、舌を出した。
主人を主人とも思わぬ態度に、目眩がする。

「連れていけ。多少手荒に扱っても構わん。」

お決まりの台詞を私が言うと、メイド頭は目を輝かせた。
生きた着せ替え人形を手に入れたようなものである。
これから深夜まで、『手荒に』肌に香油を擦り込まれたり、服を取っ替え引っ換えされたり、おもちゃにされるのだろう。
憐れ勇者。
いつもの私と同じ目に合うがいい。

「お気に召しましたでしょう、魔王様。」

疑問形でなく、確認や念押しの口調で側近が言う。

「ば、莫迦を申すな。私は王だ。あのようなどこの馬の骨ともわからぬ娘などに惹かれるものか。」

「おやおや。そう仰ると思いました。身辺調査はすでに済ませております。ご覧になりますか?」

どこから取り出したのか、書類の束を取り出す。それから、何かの革製の小袋。中にはぎっしりと粉や水の、薬の瓶が詰まっている。

「なんだそれは。」

勇者の持ち物だ、と側近は言う。怪我の多いかもしれない一人旅とはいえ、多すぎる。あの娘は何か病でも患っているのだろうか。
別に気になるわけではないが。

「これは、病や怪我を治療する類のものではありません。」

こちらに書類と一緒に手渡すと、側近は、

「魔王様のご判断に委ねましょう。」

と言って、ふっと姿を掻き消した。

なんだというのだ。
自室に戻りながら、紙束に目を通す。

身長、体重、スリーサイズ。好きな食べ物、好みのタイプ。
目を通す必要はない。私はページを飛ばした。
自分の文机の背もたれのゆったりとした椅子につき、指先でランプに火を灯す。
『男性経験、無し。性感帯、未記入。魔王様が見つけてください。』
何を書いているのだ。そのページをついでに炎で焼却処分する。

出身地、西の帝国。さる貴族の娘として生まれる。
幼い頃に母を流行病で亡くし、父親は再婚後、死亡。死因は不明。
継母の金遣いは荒く、家は没落。
父の存命中は残っていた古くからの使用人を含めて、死後は全てが去る。
その後、娘は継母に奴隷同然の待遇で仕える。
数年後、娘に勇者の徴が現れた為、大金と引き換えに帝都に引渡される。
栄養状態、発育状態共に不良であった娘は、素質はあったものの、筋力も魔力もなかった。
そのため、帝都の施設で呪式を組み込まれ、勇者として使用できるまでに強化。
その後も、痛みの麻痺、筋力のリミッターの排除、魔力増大、反応速度の強化、感情の抑制等、勇者に必要なあらゆる要素を獲得させる為、術式、薬物を投与。
娘は人間の為に動く道具、対・魔族用兵器として……。

そこまで読んで私は投げ棄てた。
反吐が出る。

しかし合点がいった。

あの細い体で大剣を振り回していた理由も、勇者という割には、剣と鎧以外は浮浪者のような身なりであったことも、そのくせ、食事のマナーや立ち居振る舞いがきちんとしているアンバランスさの理由も、魔王を倒しにきたという割には、その戦闘に対するモチベーションがひどく低い理由も。

「おい。」

「あい、魔王様。」

呼びかけに応え、メイドのひとりが姿を現す。

「この、勇者の継母とやらの顔が見たい。」

「魔王様、申し訳ありません。」

珍しく、不可能を告げてくる。

「もう頭部は残っておりませんの。指の骨くらいなら、もしかしたら、まだ何処かに引っかかっておりますやも……」

私はこめかみを押さえながら制した。

「だいたい分かった。もう良い。そこに書いてある、勇者を強化したという施設は今どうなっている?」

「関係者に災いがあって、解体されたようですわ。噂では、最高責任者の妻や娘が魔族に狂わされたとか、研究員が無残な死体で見つかったとか聞きますわね。」

全く我が配下共は、勝手なことをする。時折、面倒なこととなる身分の人間まで食べては、私が事後処理をすることになるのだ。
それが、メイド共のように食欲的な意味であれ、側近のように性欲的な意味であれ。
そのおかげで、人間に魔王討伐という名目を与え、あの娘をあのような境遇に追い込む一端を担ってしまった。

「勇者は、どうしている。」

着せ替えに飽いて、魔物共が喰ってしまっていたらどうすべきか。

「勇者様なら、お休みになられましたわ。魔王様のお部屋にお移しいたしましょうか?」

「いらぬ気遣いをするな。」

あれの無事を聞いて、妙にホッとしている。

「あれをしばらくここで飼う。持ち物は全て取り上げろ。あれ付のレディースメイドをつけさせろ。服はお前たちが用意したものを着せろ。けして帝国に返すな。」

私が告げると、メイドは嬉しそうに部屋を飛び出して行った。
そしてしばらくの後に、ネグリジェに身を包んだ勇者の手を引いて、私の部屋の中に直接現れた。

「ボクをここに置いてくれるって本当?ボク、今日はおくすりを飲んでいないからすごく弱いのに?こんなにボクは気持ち悪くって、何の役にも立たないのに?」

「それを仰るなら、魔王様だって、こーんな気味の悪い顔色していらっしゃいますわよ。」

こちらを指し示す使用人を、とりあえず睨んでおく。
気持ち悪いと自称するが、私の目には、白くて細くて柔いただの女にしか映らない。

「魔王を倒せば、ボクに価値ができるって言われてたんだ。それから、お義母さまもボクを認めてくださるって。でも、キミたちは、ボクよりずっとちゃんと価値があるひとたちだ。無価値なボクが、それを壊したりなんてして良いはずがないじゃないか。」

ぽろぽろと、娘の目から透明な液体が零れ落ちる。
メイドがハンカチでいちいち拭ってやる。

「ならば魔王である私がお前の価値を与えてやろう。お前は今この瞬間から、この魔王の飼いい」

飼い犬、というのを遮られ、メイドは勇者を強く抱きしめると、私の言葉を勝手に引き継いだ。

「あなた様は、今この瞬間から、魔王様の婚約者ですわ!」

「えっ……」

勇者は驚愕に目を見開いてから頬を染め、やめろそんな目で見るな。

「ボクなんかで、いいのかな。」

成り行き上、頷くしかなかった。

私は見逃してはいない。
メイドが小さくガッツポーズをとるのを。
部屋の扉に聞き耳をたてている側近がいるのを。

これは、勇者への同情であって、この私がこのような小娘に惚れることなどけしてありえない。
ましてや人間のような矮小な生物など、うっかりすれば壊れてしまうと錯覚させるようなものを自らの意志で抱くなど、ありえない。
それでもしばらくの間なら、部下の労をねぎらうという意味で、期待通りの行動をなぞってやっても良い。
そして、ほんの少しの間ならば、運命に関わってしまったという詫びの意味で、この勇者を側に置いてやっても構わない。
これから先、もしかしたら何かの拍子になにがしかの役に立つかもしれぬし。
そう思うことにして、無理矢理自分を納得させる。

私がなんだかんだとずりずると年月を経て、側近や使用人の策略にまんまと嵌り、うっかりと勇者を手放せなくなってしまうようになるのは、ここからほど近い未来のことである。

<了>
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思いついただけで続ける気の無い文章を置いておく場所。
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