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オートマタ 1

長くなったから三回に分けた。

魔王と勇者がいちゃいちゃしながら旅をするだけ。



「いやあ海はいいねえ。」
のんびりとした声に、勇者は仏頂面で返した。
「こんな状況でよくそんな台詞が吐けるな。」
にやあ、と笑う。
「こんな状況だから、そんな台詞を吐かざるを得ないのさ。」
勇者は肩を竦めた。
「あのままあそこにいるよりはマシか」
二人が悠に座れる船のような木片に敷いたマントの上に、ころん、と寝転がると魔王はひとつ伸びをする。
「しかし……誰が信じるだろうね、この状況を。」
「信じる信じない以前に、だれかに会えりゃあいいけどな」
「世界は広いからねえ。旅を続けていれば、いつかは誰かいるさ。」
今は休もうよ、と魔王は目を閉じて、波の音に耳を澄ませた。
海風が顔を撫ぜて過ぎる。
魔王の傍に寄り添う様に座った勇者は、ふわりと指を魔王の髪に絡ませる。
「寿命が尽きる前にそうなることを祈るよ。」
「誰に会えずとも、このままふたりっきりでどこかに落ち着くってテも考えてみたのだが。」
と、囁きながら指先を勇者の腿に這わせる。が、それを振り払う。
「ゴメンだね。」
魔王は不満そうな顔で目を開け、寂しそうに勇者の顔を見上げる。
「ツレないねえ。」
「お前じゃな。」
「君の好みの姿をしていると自負しているのだけどね。」
勇者は、片方で魔王の細い手首を掴み、覆いかぶさる。空いた手で髪から頬、頬から喉とするすると下に、下に向かって指を滑らせながら言う。
「見た目だけでは人の心を惹くことはできないんだよ。」
しゅるり、と魔王の首元を装飾していたリボンが解かれる。
「それは残念だ。こうして触れてはくれるのに、心も魂もくれないなんてね。」
「誰が魔王なんぞ愛するものか。」
「けち。」
「俺がお前に屈してしまえば、人類はおしまいだからな。」
「こうして舌を絡ませながら言っても説得力ないよ?」
くすくすくすと笑うその胸に顔を埋めてきりきりと噛みつきながら、勇者は吐息に言葉を乗せた。
「うるさいばか。」
波が、寄せては返す。
高く昇った月が、ゆらゆらと水面に揺れる。
二人の乗った木片も、ゆらゆら揺れる。

魔王は、かつては魔王として君臨していた。
あらゆる魔物の王を統べる王。生きとし生けるものの畏怖の対象。人類の敵。
城の最上階に閉じこもりながら、魔王の顔色を窺い平伏する魔物を睥睨し、その首を狙ってやってくる魔物や精霊や龍や人間を引き裂いて窓から廃棄する。
ただそれだけ。
時折人類に現れる勇者と呼ばれる者に、封印されては復活し、封印されては復活する。
外の世界のことは知らなかった。
娯楽もない。
強いて言うなら、なんだか皆怒ったり怯えたりしながら、攻撃を加えてくるから、それを千切って捨てる方法に幾らかのバリエーションを加える程度。
しかしそれとて何年も、あるいは何百年も続けていれば飽きる。
ある朝、魔王が何十回目の封印から目を覚ますと、いつもとは違ってひどく静かだった。
「ヴィンス?」
いつも自分より先に復活を遂げ、傍らに控えている側近の名を呼ぶ。
返事はない。
こんなことは初めてだった。
天井に明かりが灯っていないのも、部屋が荒れ果て、煤けて、埃っぽく、壁が崩れ、冷え込んでいるのも。
「ヴィンセント?」
他の魔物の名は知らぬ為、ただただ側近の名だけを繰り返す。
応えるものはない。
身を起こし、他より高くなった玉座から降りると、足で何かを蹴飛ばした。
ごろり。ごろり。ごろり。
黒くて丸いそれは、三回転して魔王から少し離れた先で静止した。
魔王はそれに近づき、拾い上げ、見つめた。
「ヴィンス。」
球体の窪みと歪な孔を魔王は愛しげに指でなぞった。
そのまま蹲るように抱え込むと、黒く丸いものは、はらはらと砕けて魔王の指の間から床に落ちた。
顔を上げて見回すと、夥しい数の、かつて生きて動いていたものが、魔王の眠っていた玉座を中心に放射状に朽ちて散らばっていた。
最後に眠りに落ちた時は、いつもと同じで独りだったから、これが起きたのは自分が封じられてからだろう。
どれが魔物でどれがヒトか判別がつかない。が、どちらも等しく二度と動かないことは明白だ。
魔王は、それらを踏まぬように歩き出すと、自分に敗北したものを捨てていた窓まで行って身を乗り出した。
しん、と静まりかえっている。
「勇者……。」
勇者の気配は、魔王の居城から遠く離れたところにあった。
いつ目覚めた時だって、勇者の生まれるのは、自分の城から見れば世界の果てだ。
魔王は、窓から身を躍らせた。
飛び降りてから、自分がこの世に出現してから初めての外出だということに気がついて、苦笑した。

魔王の復活する間隔は、回数を重ねるうちに、長く長くなっていた。
そのおかげで、ある時、人類は、長年の研究を経て、勇者なくしても魔物に対抗する手段を得た。
ある種の毒や細菌は、魔物にも有効である。
この種の魔物の皮膚は、何度以上の高温であれば焼く事ができる。
この魔物にはこれだけの衝撃を与えれば息の根を止められる。
数値化し、実験と実証を重ね、実戦で検証して。
長い間人類を脅かしていた魔物は、もはや猛獣程度の脅威でしかなくなった。
勢いに乗った人類は、知力の低い魔物を狩り、知性のある魔物を取り込み、爆発的に世界中に人口を増やした。
その勢いは、主の眠り続ける魔王城まで迫り。
突然、ぱたりと止まった。
感染病が魔物と人類を問わず拡がったことか、開発した自動人形が暴走したことか、それとも他に原因があるのか。
理由はわからないが、勇者は自分の他にヒトを見ずにここまで育った。
勇者は、その施設で発生した中の、唯一の生き残りだった。
勇者は、試験管から産まれた。
偶々運良くそのガラス管に繋がる機械だけが稼働していたこと、彼を優秀な個体として破棄せずに子供を送り出すという職務を全うしたこと、彼を育てる自動人形が壊れるまでの時間が彼の自立するに充分だったこと、様々な幸運を重ねて、一人の少年として成長した。
彼に宿った魂は、彼に自分の使命を自覚させた。
「魔王を、倒す。」
勇者は、自分の本能が導くままに歩き出した。

勇者は、魔物に出会わなかった。
魔王は人に出会わなかった。
静かな静かな世界を導かれるまま歩いて、歩いて、歩いて、魔王と勇者は邂逅を果たした。
何年間も、熾烈な闘いを続けた。
断ち、燃やし、引き摺り、突き刺し、絞め、殴り、抉り、噛み付き、落とし、叩きつけ、砕き、痺れさせて、凍らせ、削って、溺れさせ、斬り裂いた。
勇者は少年から青年になり、他の勇者と同じくそこで成長も老化も止まった。

死闘を繰り返して、どちらともなくひどく虚しくなった。
揃って青空の元に倒れ込みながら、ぽつりぽつりと言う。
「何の為に闘ってるんだっけ。」
「覚えてないが、他にやることがなかったからではないのか。」
「そうだっけ。人類と魔族の種をかけた争いとかそんな大義名分があった気がするんだけど。」
「お互いが最後のひとりだったら、お互い自分の為に戦っていることになるな。」
「じゃあ、ひとりじゃなかったら、それはお互いの種の代表として戦っていることになるよね。」
「まーな。他に会ったことはないけどな。」
「そしたらさ、こうしよう。これから一緒に世界中を虱潰しに、こっちは魔王だから魔物を、君は勇者だから人類を探してさ、大義名分をちゃんとして、それから雌雄を決することにしようよ。」
「休戦か」
「休戦だよ。名前、聞いてもいいかな?」
「俺は、エイベル。認識票にはそう書いていてあった。」
「こっちはグロリア。ヴィン……側近が、昔そう呼んでた。」
ふたりは、休戦協定を結び、勇者と魔王は長い旅を、ここから始めた。
当てのない旅だった。
成果は無かった。
時々人や魔物の形跡は見つけたものの、全てが古く、朽ちていた。
旅の目的を忘れた頃。

いつのまにか、勇者と魔王は、勇者と魔王としてあらず、男と女になっていた。

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