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三代目の憂鬱 国王、苛立つ。

国王は執務室で報告を聞いた後、左手で眉間を軽く押さえ、空いた右手を軽く降って密偵を下がらせた。

「勇者め」

獅子の吼えるような声で、苦々しげに唸る。

秘密裏に出した触れにより、勇者を自分の前に平伏させる筈が、後一歩及ばず、まんまと逃げられたらしい。
追っ手は正規の兵ではなく、金や権力をちらつかせれば動くような傭兵や冒険者。
本来ならば王である自分とは同じ空気すら吸えないような下衆共である。

王が命じたのはひとつだけ。

勇者を自分の前に引きずり出すことだ。
正規兵にも自分との謁見の名目で勇者を連れてくるように命じているが、前者に出した触れには一文を加えている。

「但し標的の生死は問わず。」

表向き、勇者には魔王を倒してもらわねばならないため、ターゲットが勇者であることは伏せている。
「勇者め」

ぎりり、と奥歯を噛み締める。

奴を勇者などと称するのは癪だ。
癪だが名のない勇者は勇者以外に呼び名がない。
その事実すら王にとっては勇者を憎む理由の一つにしかならなかった。

琴獅子の月の一日に、勇者は我が前に平伏せ、我が命によって魔王討伐の旅に出る。
そして、魔王を倒した直後に、二番目の勇者と同じく魔王の残党の手で散るのだ。

そういう筋書きだった。
それが崩されたのは、その前日。
つまり藍犬の月末に、勇者が神殿の聖剣と共に姿を消したと報告を受けたあの日であった。


さて、この世で一番大きな国はと問われれば、読み書きを習う前の子供であろうとこう答える。

英雄王の子孫の治めるこの国だ。

今更いうまでもなく、この国の礎を築いた英雄王とは、かつて最初の魔王を討ち果たした伝説の勇者のことである。
二番目の魔王を討ち果たした勇者もまた、英雄王の一族に連なる者であった。

現王である彼は、自らが英雄王の子孫であること誇りにしていたし、
英雄王の子孫として常に気高く正しく生きようと自らを律してきた。

魔王に対抗する力を持つ英雄王の国の一部となることは、どの国にとっても魔物から身を守る手段となり、平和へ歩む第一歩となる。
とりわけ今の王になってから、英雄王の国は、急速に他の国を併合し、吸収し、生き物のように更に成長している。

父である前王や母であるその后が次々と魔物の手にかかったにも関わらず、けして魔物に屈さないその姿。
たった12歳で即位し、まだ5年と経たないが、数々の国を併合させたその手腕。
国民は英雄王の子孫に絶大な支持と信頼を寄せ、熱狂していた。

誰もが王を敬い、王国の一員であることは名誉なことであると認識していた。


しかし、そんな国王にも頭痛の種があった。
西の魔界に東の勇者、そして北の共和国である。
共和国の国民は、英雄王の国による統合に唯一反対し、抵抗し、あまつさえ西の魔物共や、さらに北の龍族や、妖精などの化物との共存を唱える馬鹿げた思想の持ち主だ。

勇者にいらぬことを吹き込んだのも、ここの連中ではないかと王は睨んでいる。

でなければ、自我のない戦闘人形の勇者が、逃亡するなどと思いつく筈がないのだ。



「貴方のその地位を脅かそうとしているのかもしれませんわね。
 そうすると、王様、もしや知られてしまったのではありませんこと?貴方の秘密を。」

艶やかな声が、耳を擽った。この国の王妃であり、私の妻である。
後ろから細腕を私の首に回し、くすくすと笑う。

「そうなると困りますわね、王様。
 英雄王の正統な血筋が、貴方ではなく勇者だって国民や、他の国に知られたら、
 私も貴方もこの椅子から降ろされてしまいますものね?」

「お前以外にまだ知るものがいたというのか?それとも、まさかお前が」

誰もが美しいと褒め称える王妃の顔だが、私は作り物じみたこの笑顔が嫌いだ。

王妃はその笑顔を私に近づけると、私の言葉をさえぎるように唇を触れさせた。

「わたくしは貴方を裏切りませんわ、王様?いつも申し上げているでしょう。
 世界を魔王や精霊から人間の手に。
 王様にはこの国をもっともっと大きく強くしてほしいのですから。」

ね、と王妃は微笑む。

「英雄王と血の繋がらない王様。」

血の気が引き、女を突き飛ばす。
艶やかな微笑みは、その地位に相応しくないにやにや笑いへと変わる。

「ねえ王様?真実とはとても残酷ですわね。
 でも大丈夫。王様の秘密はもうわたくししか知りません。
 王様の秘密を知っている者はみーんなわたくしが王様のためにちゃんと始末させておきましたから。
 だから、王様は安心して覇道を進んでくださいましね。」

力が入らず椅子にもたれかかるように座り込んだ。
仕草だけは優しげに、王妃は私の胸に顔を埋める。

「そしてわたくしをけしてはなさないでくださいまし」

私は、王妃の作り物じみた笑顔が大嫌いだ。
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