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三代目の憂鬱 魔王、謁見する。

彼は緊張していた。
表情だけはにこやかに。
目の前の相手の動きに気を張り巡らせながら。
今のところその相手は、向かいの席で機嫌よく、茶菓子をせっせと口に運んでいる。
演技なのか素なのか判別がつきにくいが、おそらく演技に違いあるまい。
たとえ頬にクリームをつけていようと。

なにしろ、相手は魔王であった。

破壊と混乱、恐怖と絶望をもたらす闇の王。そんなものが、乗り込んできたのだ。
緊張するなという方が無理がある。

「して、魔王殿。御身が直々にいらしたのには何かしら理由がおありなのでしょう。」
「む。先触れを寄越したであろうに、なにも伝え聞いておらぬのか。」

顔を上げ、ちらりとこちらに視線と言葉を投げかける。
姿形は人間の子供である。
しかし、見た目通りの存在では無論ありえない。
龍族の長である彼は、固い動きで僅かに頷いた。
冷や汗が背を伝う。

数日前、確かに魔王の遣いを名乗る魔物が現れたと警備の者が報告しに来たように思う。
しかしこの数ヶ月、そう名乗る偽者が後を絶たず、同じようにつまみ出すよう指示した覚えがある。
その上、今目の前に座る魔王を見つけたのは、日課である首都の視察中であった。

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theme : ファンタジー小説
genre : 小説・文学

三代目の憂鬱 側近、目覚める。

「なにもそこまで」

魔王様は、苦笑した。
私と魔王様直属の四天王との計画をお聞きになったときだ。

王家に、預言の年の琴獅子の月までに子が生まれなければ。
つまり英雄王の血に連なる子供が預言の日までに生まれなければ。

勇者は誕生せず、即ち預言は実現せず。魔王様を倒すなどという不届きな存在は永遠に生じない。

刺客を差し向け、王と后の命を狙ったが、残念ながら、全て失敗に終わった。このままでは預言が実現してしまう。
焦り始めたとき、魔王様にひどい媚びを売っているエルフの小娘が言った。

「その男の子供がその月までに生まれなければいいのなら、その期間に他の男の子供をその女に生ませればいいじゃない」

小娘の発想は、いつもながらに低俗だ。

魔王様の四天王は賛成し、実行に移した。
王家に不和の種を蒔く。
后と、その身を守る騎士との距離を縮め、魅了の術をアレンジして、お互いがお互いを求めるようになるよう仕向けた。
結局のところ、計画はうまく進んだ。
王家のスキャンダルは隠されたらしいが、王と后の仲は急速に冷え切り、后は王の子供ではなく、騎士の子供は身篭った。

しかし、勇者は生まれてしまった。

王は、王都から東の貴族の領地を視察し、数ヶ月滞在した際に、その地でひとりの娘と恋に落ちた。
王が都へ帰る前の、たった一晩だけ、王と娘とは誰にも知られることなく結ばれた。

奇しくも同じ年の同じ月に、后の子供と王の子供、二人の子供が誕生した。

后の子供は王子として、王の子供はただの村の子供として、誰にも真相を知られることなく育つはずだった。

それならそれで良いと魔王様は仰せだった。
英雄王の子供といえど、
あの剣にさえ触れなければ、
あの剣に見つからなければ、
勇者としての能力に目覚めることもなく、ただの子供として過ごし、不死の呪いもかからぬのだと。

そして王子に英雄王の血が流れていないのならば、剣はけして王子を選ばぬ。
ただ為政者として生きて、寿命を全うすればよいと。

剣と預言はそれを許さなかった。

最初の勇者が最初の魔王を倒したのを記念した祭りの日、神殿は例の剣を一般に公開する。
王子は后の手に引かれ、子供は母の手に引かれ、剣の前に立った。
最初の勇者の血に反応し、剣は歌う。

王の時は、聞こえるか聞こえないかの微かな声で。

王子と子供のときには、まるで待ち続けた恋人を目の前にしたように、歓喜の歌を高らかに。

后と少年の母はそこで初めて視線を合わせ―――真実を知る。

私はそれを人に紛れて見ていた。万が一子供が剣に選ばれたときのために、
その場で、勇者の命を狙い、城と神殿とを破壊するつもりだった。

しかし、后と子供の母の青褪めた顔を見ると、動けなかった。
それは、未だに後悔している。

后は嫉妬に狂い、少年の母は病に倒れ、少年はただ戦闘人形として育てられる。
そして数年後、自分の出生の秘密を知った王子の周りで、王と后と老大臣やその他古くから城に遣えていた者が次々と不審な死をとげる。

魔物によって王家の人間が狙われたのだと人間達は言っていたが、
魔王様の命令にはそのようなものは出ていなかった。
おそらく魔王様から離れた者の仕業であろう。

そうして王室の秘密は闇に葬られ、王子は王となり、少年は勇者となった。

そして、ついに勇者は魔王様の前に現れ、魔王様……魔王様の御前に勇者が!

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theme : ファンタジー小説
genre : 小説・文学

三代目の憂鬱 国王、苛立つ。

国王は執務室で報告を聞いた後、左手で眉間を軽く押さえ、空いた右手を軽く降って密偵を下がらせた。

「勇者め」

獅子の吼えるような声で、苦々しげに唸る。

秘密裏に出した触れにより、勇者を自分の前に平伏させる筈が、後一歩及ばず、まんまと逃げられたらしい。
追っ手は正規の兵ではなく、金や権力をちらつかせれば動くような傭兵や冒険者。
本来ならば王である自分とは同じ空気すら吸えないような下衆共である。

王が命じたのはひとつだけ。

勇者を自分の前に引きずり出すことだ。
正規兵にも自分との謁見の名目で勇者を連れてくるように命じているが、前者に出した触れには一文を加えている。

「但し標的の生死は問わず。」

表向き、勇者には魔王を倒してもらわねばならないため、ターゲットが勇者であることは伏せている。
「勇者め」

ぎりり、と奥歯を噛み締める。

奴を勇者などと称するのは癪だ。
癪だが名のない勇者は勇者以外に呼び名がない。
その事実すら王にとっては勇者を憎む理由の一つにしかならなかった。

琴獅子の月の一日に、勇者は我が前に平伏せ、我が命によって魔王討伐の旅に出る。
そして、魔王を倒した直後に、二番目の勇者と同じく魔王の残党の手で散るのだ。

そういう筋書きだった。
それが崩されたのは、その前日。
つまり藍犬の月末に、勇者が神殿の聖剣と共に姿を消したと報告を受けたあの日であった。


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theme : ファンタジー小説
genre : 小説・文学

三代目の憂鬱 魔王、言い訳する。

先ほどは余、あまりにも突然勇者に遭遇したものだから、思わず魔力を全力で放出してしまった。
余に排泄機能が備わっていたら、粗相をしてしまったかもしれぬ。

ともかく余のこの火傷は、勇者が落とした剣を拾おうとした時のものであって、
特に勇者と戦闘したわけではないゆえ、ノーカンにするべきだ。
勇者とその邪悪な剣とをあの場に放置しておくと、再生が終わった後に余の可愛い魔物達が襲われでもしたら大変だからな。

拾ってきて余が直々に監視しておこうというわけだ。ははははは。

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theme : ファンタジー小説
genre : 小説・文学

三代目の憂鬱 側近、卒倒する。

宮殿へ帰還した魔王を見るなり、その側近は悲鳴を上げた。

最上級の絹で織り上げた漆黒の外套は、そこかしこに擦れたような傷がつき、破れたような箇所もある。黒く焦げたものを引き摺る左手には、火傷のような痕が痛々しい。

体がよろけるのをなんとかこらえて、彼女は声を絞り出した。

「いったいどうなさったのです!」

大きく、重そうな荷物を曳きながら自室に戻ろうとしていた魔王は、ぎくりと体を硬直させて、ぎいい、と首を動かし視線を自分の側近に向けた。

「ああ、余はすこし、地上に降臨してみたのだ。」

耳に心地よいソプラノが応える。それから、悪戯が見つかった子供はぼそりと付け加えた。

「降臨した先で、勇者に遭遇した。」

そしてこの有様だ、と自らの側近の顔を見上げ、大きな目を潤ませた。
左手以外には、目立った外傷もないことにほっとした側近は、主に跪き、治癒の魔法を操作しながら訊ねた。

「忌々しい預言の黒鶫の月はまだ先というのに、御身の前にもう勇者が現れたとは。
何にせよ、魔王様がご無事で良かった。ところで、我が君、魔王様がお持ち帰りになったその何やら動いております黒い物は一体?」
 焼き過ぎた肉の塊にも見えたそれは、よく見ると魔王に引き摺られながら、うねうねと動いている。
「ああ、これはな」
 魔王は視線を泳がせると、言いにくそうに答えた。
「勇者だ。」

今度こそ、側近は卒倒した。


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theme : ファンタジー小説
genre : 小説・文学

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湖丸あいがも

Author:湖丸あいがも
思いついただけで続ける気の無い文章を置いておく場所。
あひるとは同一人物。

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